新規上場企業分析 ~資本政策を読む~ : Hmcomm株式会社

新規上場企業分析では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の情報をもとに資本政策の考え方について分析、考察を行っています。
15回目となる今回は、産総研技術移転ベンチャーとして「音」に着目したAIに関する研究開発から製品提供までをAIプロダクト事業とAIソリューション事業で展開されているHmcomm株式会社 (以後、Hmcomm社という)について見ていきます。

事業の概要

Hmcomm社は、2012年7月にH&Mコミュニケーション株式会社として設立、2024年10月28日にグロース上場されています。

事業内容は、単一セグメントで下記の2事業を展開されています。

1. AIプロダクト事業:「Voice Contact」「Terry」をはじめとした音声認識・言語解析プロダクトを開発、提供。

2.AIソリューション事業:プロダクト開発で培ってきた4つのノウハウ(XI(※))を集結し、顧客の持つデータの利活用にかかわる経営課題を分析し、生成AIを活用 した課題解決やDX化推進を支援。

(※)「XI」とは、Hmcomm社の造語であり以下4つのノウハウを集結し、データの持つ力で新たな社会的価値を創造する 「データサイエンス」により企業のDX推進をトータルにサポートする意味を込めています。
AI:自社プロダクト開発で培ってきたAI(人工知能)技術
BI:自社プロダクトの導入サポートにより蓄えられたBI(ビジネスインテリジェンス)技術
CI:自社プロダクトの導入サポートにより蓄えられたCI(カスタマーインテリジェンス)技術
DI:上記をより効率的に活用するためのDI(データインテグレーション)の知見 

資本構成

次に上場時の資本構成です。下記にⅠの部の「株主の状況」について表形式でまとめました。 

上記株主構成から以下の特徴があると言えます。

1.役員陣のみによる持ち株比率が顕在株ベースで過半数を保有

親族を含む代表取締役と取締役を含めた経営陣での持ち株比率が顕在株ベースで53.2%と発行済み株式総数の過半数を占めています。そのため会社法上の決議事項(普通決議)については、経営陣主導で迅速に意思決定ができる状況となっています。 経営陣の持ち株比率が過半数を占めていると、多くの意思決定について経営陣のみで決定することができるため、迅速な意思決定が求められるスタートアップとして有効な資本構成だと考えられます。

2.資本業務提携の活用

Hmcomm社では継続的に複数の事業会社と資本業務提携を実施しています。そのうちの数社については主要取引先としてⅠの部にも記載されており、資本業務提携の効果が伺えます。特に株式会社FRACORAについては、Ⅰの部記載の第11期、第12期において販売実績の40%超と大口取引先として連携されていました。上場にあたっては1社に大きく依存した売上構成は見直しを迫られることもあり、第13期では20%を超える取引先はなくなりました。 このように上場前には取引先との連携を強化し売上実績を作ることも資本政策として活用されることがあります。

3.従業員へのインセンティブ

Hmcomm社は定期的に従業員に対しストック・オプションを発行しています。Hmcomm社が発行しているストック・オプションは潜在株を含めた発行済み株式総数の9.2%となっており、グロース上場企業におけるストック・オプションの平均発行割合は約8%と比較してほぼ同等の割合となっています。ストック・オプションは上場を目指す企業が活用できる有効なインセンティブとなるため、自社にあった設計を検討し、運用していくことが重要です。

以上から、Hmcomm社は、迅速な意思決定を担保しながら、資本業務提携を活用して必要資金を調達しつつ売上を伸ばし、ストックオプションを活用して従業員に対するインセンティブを設計し上場を達成しています。そのため上場達成の背景には有効な資本活用があったと考えられます。

資本政策は事業活動における様々な選択肢を考慮しながら、作成することになります。

柔軟性のある資本政策を作成することで、意思決定の幅を広げることが可能となります。

そのため、外部の専門家に資本政策の策定支援を依頼することも有効かもしれません。
今後も他のビジネスモデルにおける資本政策について考察していきたいと思います。 

以 上

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