新規上場企業分析では、新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)の情報をもとに資本政策の考え方について分析、考察を行っています。
14回目となる今回は、AI/DXに関するプロダクト・ソリューション事業を展開している株式会社アイデミー(以後、アイデミー社という)について見ていきます。
事業の概要
アイデミー社は、2014年6月設立、2023年6月22日にグロース上場されています。
事業内容は、 AI/DXに関するプロダクト・ソリューション事業として、AI/DX人材育成のプログラムを提供しながら、法人についてはアイデミー社が育成したDX人材とともに社内DXの支援をソリューションとして提供しています。
「先端技術を、経済実装する」をミッションにかかげるアイデミー社は、AIをはじめとした新たなソフトウエア技術をいち早くビジネスの現場にインストールし、次世代の産業創出を加速させることを目的として事業を展開しています。
資本構成
次に上場時の資本構成です。下記にⅠの部の「株主の状況」について表形式でまとめました。

上記株主構成から以下の特徴があると言えます。
1.役員陣のみによる持ち株比率が顕在株ベースで過半数を保有
取締役及び執行役員を含めた経営陣での持ち株比率が顕在株ベースで51.9%と発行済み株式総数の過半数を占めています。そのため会社法上の決議事項(普通決議)については、経営陣主導で迅速に意思決定ができる状況でした。 経営陣の持ち株比率が過半数を占めていると、多くの意思決定について経営陣のみで決定することができるため、迅速な意思決定が求められるスタートアップとして有効な資本構成だと考えられます。
2.資本業務提携の活用
アイデミー社では2020年から大手企業複数社との資本業務提携を実施しています。 業務提携の具体的な効果まではわかりませんが、2020年5月の売上378百万円だったのに対し、2021年5月期の売上は603百万円、2022年5月期は1,156百万円と大幅な増収となっているため、資本業務提携により一定の売上インパクトがあったと推察されます。 また同時期は、2019年12月には経団連への加入、2020年5月には信託型ストックオプション(後述)の導入を実施しており、上場に向けて多くの施策を実行した時期といえるでしょう。 このように上場に向けた施策として、資本業務提携を活用することも有効です。
3.従業員へのインセンティブ
アイデミー社は2020年5月に信託型ストックオプションを発行しています。 また、信託型ストックオプション設定後も別途ストックオプションも継続的に発行しています。
なお、信託型ストックオプション320,000株については、その権利行使条件が「うち150,000株については東京証券 取引所グロース市場に上場した日から2年6か月が経過した日、プライム市場に上場した日から6か月が経過した日、又 は2027年5月31日のいずれか早い日に信託期間が満了しその後6か月が経過した日以降、うち 170,000株については、プライム市場に上場した日から6月が経過した日又は2030年5月31日のいずれか早い日に信託期間が満了しその後6か月が経過した日以降」となっています。 そのため、信託型ストックオプションは上場後の功績評価に対するものであり、通常のストックオプションは上場前の功績評価に対するインセンティブと考えられます。
信託型ストックオプションについては、2023年7月に税制取り扱いが明示され、所定の要件を満たさない場合には給与課税として累進課税が適用されることとなったため、ストックオプション付与者における金銭的なメリットが減少することとなったが、インセンティブとしては複雑な設計を行うこともできるため、設計にあたっては専門家も交えて自社にあった設計が必要です。
以上から、アイデミー社は、迅速な意思決定を担保しながら、資本業務提携を活用して必要資金を調達しつつ売上を伸ばし、2種類のストックオプションを活用して従業員に対するインセンティブを設計し上場を達成しています。そのため上場達成の背景には有効な資本活用があったと考えられます。
資本政策は事業活動における様々な選択肢を考慮しながら、作成することになります。 柔軟性のある資本政策を作成することで、意思決定の幅を広げることが可能となります。 そのため、外部の専門家に資本政策の策定支援を依頼することも有効かもしれません。
今後も新規上場企業のビジネスモデルにおける資本政策について考察していきたいと思います。
以 上
